今回のごきんじょさん:川崎敦子さん
引きこもり支援サロン「誰にも会いたくないカフェ」に取り組む
商店街の洋館に笑い声が響く。一番人気はTRPG。テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲームというボードゲームの一種だ。ここでは若者たちが、一緒にゲームをしたり映画を鑑賞したり、本を読んだりして交流している。でも、新スタイルのゲームセンターができたという訳ではない。ここは引きこもり支援サロン「誰にも会いたくないカフェ」。この場を運営するのが川崎敦子さんだ。
サロン運営のきっかけは約10年前。小学校の放課後の学童保育を民間で受託し始めた頃に遡る。学童保育のスタッフは当初、学生バイトがメインだったのだが、知人から依頼を受け、引きこもりになった若者をスタッフとして迎え入れるようになった。最初は週1回から始まった彼らのシフト。慣れると週3回になり、やがて毎日シフトに入るように…。彼らはやがて、正社員として働いたり、大学に復帰するまでになった。
学童保育を受託して7年ほど経った頃、転機が訪れる。話を聞きつけた市役所の職員から大学との共同による「引きこもり支援事業」への協力要請があり、実験的に引きこもり支援サロンを始めることになったのだ。当初は、別々の学童でバイトとして働いていた若者が対象だった。大学を卒業して引きこもりになってしまった人、社会人で仕事を転々とした人など女子5人をバイトの前にサロンで交流させるようになったのがスタートだったという。
写真:引きこもり支援の現場とは思えない盛り上がりだ
サロンではゲームや映画鑑賞が行われているが、スタッフから「社会復帰のために、どうにかしてあげよう」という積極的なアクションはしていないという。「支援の現場にいると、私達ってなんとかしてあげたいと思ってしまう。でも、直してあげようと思うのが私達の奢りだったんです。彼らと話していると、彼らが一番自分たちのことを責めているんですよ。『社会に出ていない自分はダメなんだ』って。すごく真っ当に生きようとするんです。『失敗しちゃダメだ!』って、思ってしまう。だから失敗しないように外に出なくなって、引きこもってしまうのかなって思ったんです。だから彼らに『堂々と引きこもりなさい!』と言ったこともありました。『さすがにそれはダメです』って言われましたけど笑」。社会復帰のタイミングは本人たちに任せようということだろう。
これでは、社会復帰につながらない気もする。「『親すら家に来てほしくない』と言っていた一人暮らしの若者が、『最近調子悪いんですよ。一人でいると人と話したくてたまらなくなることがあるんですよ』と言うようになったんです。でも、それ、よくなってるやん!って大笑いしたことがありました」。ゆっくりと、しかし着実にサロンの若者は社会に戻れるようになっている。
写真:サロンのある逓信舎は国指定登録有形文化財だ。
今後は、「引きこもりの出口問題にも、もう少し関われるようになりたい」という。「例えば地域のイベントのときの単発のバイトやシェアハウスなど、サロンに来ている若者が自分のペースで社会と繋がれて、自分の生きる道を探れるような場所を作っていきたいです」。社会に戻ることを強制するのではなく、川崎さんのように「引きこもっていてもいいやん」と若者を肯定して受け入れることが、結果として若者の自発的な社会復帰につながっていくような気がした。(2020.12.21)
【川崎さんに会える場所】
「誰にも会いたくないカフェ」逓信サロン住所:彦根市河原2丁目3-4(花しょうぶ通り商店街 逓信舎内)
日時:毎週火曜日、木曜日の12時〜16時(祝日、年末年始は休館)
※利用時は要連絡(TEL:0749-20-9366)
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